第22回西陣R倶楽部 梟文庫 代表 西尾美里氏

第22回西陣R倶楽部

話題提供 梟文庫 代表 西尾美里氏

日時:令和2年2月17日(月)午後7時~午後9時

場所:TAMARIBA

 

<会長挨拶>

前回の西陣R倶楽部は、ちょうど京都市長選の前でしたので、政策変更が起こる可能性のお話をしましたが、結果は、現職の門川市長が再選されました。その選挙戦を通じて、様々なテーマが議論され、公約としても掲げられました。私も委員の一人として参加している京都市基本計画の委員会でも、公約を如何に実現するか、どれだけ取り組むかという議論が始まっています。

さて今日は、京都芸術センターで、私も参加してセンター開設20周年のリレートークをやっていまして、そのテーマが「老い」でした。「老いと演劇」OiBokkeShiを主催している俳優の菅原直樹さんも参加してのリレートークでした。老い、ボケ、死という成熟社会が避けて通れない重要なテーマでした。今後、西陣でも織物を織ったり友禅を描く等のいろいろな芸術活動にも大きな影響を与えます。いままでは、若くなければいけないというということがトラウマになって走り続けていたのだけれども、上手に老いたり、ボケたりすることによって人間らしさがにじみ出てくるということが議論の中心でした。そこで、西陣は、これからアート、文化を深めていく町ですから、こうした新しい課題に如何に前向きに取り組むことができるか、如何に楽しく老いていくことができるかということを具現化していく町でありたいなというお話をしてきました。

というところで、今日のお話にも通じるテーマではないかと楽しみにしています。

 

<話題提供>

今晩は、今日は貴重な機会をいただき有り難うございます。梟文庫という私設図書館を運営しています西尾と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

まず、梟文庫の場所ですが、上賀茂にあります。北山橋を鴨川沿いに少し上がったところにあるマンションの1室を借りて運営をしています。開設して4年目になります。図書館をベースにしていて、大人の図書室と子供の絵本棚を設けて子供だけでなく大人の本も置いています。

私は、この活動を始めるまでは、精神科領域の看護師として地域で生活しておられる精神障害をお持ちの方々の地域生活を支援するという仕事をしていました。精神科デイケアだとか訪問看護です。その仕事をするなかで、居場所というものをすごく大事に思うようになりまして、大学院で居場所の研究をして、居場所をテーマに活動をするようになりました。そうする中で、たまたまこのマンションの1室と出会って、梟文庫を開設することになりました。

元々は、子供から高齢者までいろいろな世代の人が自然に出会って交流しながら、多様な経験ができる場を作りたいなと思って始めましたが、当時は、私自身も小学生の娘を持っていて子育て真っ最中でしたので、子育て世代の親子や子供さんが中心に来られています。文庫としての特徴は、もちろん私設図書館として図書の閲覧や貸出をしていますがコミュニティスペースという要素が強いのかなと思います。ワークショップやイベントを定期的に開催しています。その際、特別な方をお呼びするというよりは地域の方が講師に来てくださっています。元々、ワークショップをする場所にしたいなと思いながら開設したものの、当初は何の当てもありませんでした。活動を始めていると自然といろいろな人に出会って、子供たちに向けていろいろなワークショップやイベントをしてくださる方々に出会っていきました。

ここからは、どのようなワークショップを行っているのかということを写真を中心にお話します。

これは自然科学のワークショップで、月に1回、wataさんという方が講師をしてくださっています。「ちりめんモンスター」といって、無選別のちりめんじゃこの中からエビとかタツノオトシゴを探します。また、顕微鏡を使ってプランクトンを見るワークショップなどもしていただいています。ダチョウの卵を持ってきて、金づちで割って、ホットプレートをいっぱいに使って巨大目玉焼きを作ってたりもします。また、テングサからトコロテンをつくるワークショップもしています。雑草を使って紙漉きをしたりもしています。

さらに、紫竹にお店を構えておられる「おやつあおい」さんに講師をしていただいて、毎月、和菓子づくりのワークショップもしています。ベランダに七輪を持ってきてみたらし団子を作ったり、カステラなども作らせてもらっています。

Eco先生には、毎月、手仕事・クラフトのワークショップをしていただいています。男の子も女の子も集まって編み物をしてみたり、粘土でミニスイーツを作ったり、スノードームづくりなどをしてもらっています。表現のワークショップなどもしていただいています。各人の「顔はめパネル」を作ったり、釘と糸を使ってパネルを作ったり、ストローを使ったモビールづくりなどをしていただいてきました。

私の娘も中学生になって、ワークショップをする側になってきました。レジンといって硬化樹脂を使ったアクセサリー作りが好きなので、それを教えています。

いろいろな先生方がコラボでワークショップをしてくださることも定期的におこなっています。毎年、お正月明けに、「はつより茶会」を開催します。和菓子を作り、洋風おせちの昼ご飯をいただき、お正月遊びにお茶会と盛りだくさんです。長火鉢を持ち込んでオヤキを焼いたりもします。また、「夜咄(よばなし)」といって、夜集まってお話会をしようということで、お料理を楽しみながら、お茶会をしています。

また、私自身が企画して文庫主催でイベントを開催します。これは「汁飯香(しるめしこう)」といって、料理研究家の土井善晴さんが提唱された料理です。お味噌汁と米飯と漬物という簡単な料理で食卓を整えるというアイデアを実践しています。子どもたちが予算の中で買い物に行くところから始まって、好きなものを作って、食べて、片付けるというところまでやっています。汁飯香は定番の企画で、子供たちと作った料理を鴨川までもっていって食べたりもしています。また、アナログなカードゲームやボードゲームをたくさん置いているので、それらを使って子どもたちが遊んでくれます。小さな手仕事ワークsチョップやおやつ作りなども定番で人気です。

また、多くの方々との連携で活動をしていることもあり、北区役所のまちづくり提案支援事業の助成金をいただいて地域マップ作りをしました。子どもたちと一緒に地域を巡って、取材をして記事にまとめています。このことによって新たに横のつながりができるなど楽しく活動させてもらいました。今はなくなってしまいましたが、「シチクガモリの夏祭り」にも参加させてもらって、子供たちが実行委員となって子どもカフェの運営をしました。カップケーキなども子供たちの発案で子供たちが作ったり、子供たちがデザインして梟の缶バッチを作り、それをスマホのスタンプとして販売しました。

年に一度、「森のひとはこ市」を文庫の近くの児童公園を借りて開催しています。子どもたちが店の店主となって自分の好きなものや自分の作ったものを販売します。子どもだけでなく大人も参加可能です。この時には、先ほどの和菓子の先生が和菓子カフェをしていただいたり、絵本ビブリオバトルなども行っています、大勢の方に集まっていただきとても盛り上がりました。

2018年度の実績では、講師の方には60回くらい、文庫主催では40回ほどワークショップやイベントを開催できました。中にはマンガミュージアムなど外に出ていくイベントもあります。

梟文庫の仕組みですが、基本は会員制としています。年会費をいただいて家賃や光熱費を負担しています。ただ、子供さんはだれでも受け入れており、ご賛同いただける親御さんに会員になっていただいています。その他に社会福祉協議会や北区役所からの助成金をいただいて運営費に充当しています。

こうした通常の活動の他に今年度は新たに二つのことにチャレンジしました。一つは、ICTを使った自習室「ラクエスト」の取組です。これは自分に合った学び方を「楽に、楽しく」探求するということで、週に1回、開けています。もう一つは「梟文庫の性教育」ということで、公教育でカバーできない領域の学びをシェアする場を作りたいと思って始めました。

ラクエストを始めた背景には不登校の問題があります。学校に行っていない子供たちが梟文庫に来るようになっており、そういう子供たちが増えているなという実感があります。それならフリースクールに行けばいいじゃないかとなりがちなのですが、フリースクールにつながっていない子供たちの方が多くて、全体の数パーセントしかフリースクールに行っていないという現状があります。子供たちが安心して過ごせる場所がありません。今は、学校に行くことを強要することは少なくなっていますが、そのことによって、子供たちの学習の権利が保障されていないという状況があります。さらに、その傾向が低学年化しています。

私自身も個人的なご縁があって、支援級に通う子供たちの個別の学習支援をお引き受けしています。発達障害や障害のある子供たちの学習支援の資格を取って、梟文庫とは別に活動しています。そういう関心があって、ラクエストのような形で支援をする場を作りました。毎週水曜日の午後に開けていて、アイパッドやパソコンを使ったりして活動をしています。元々は、いろいろな学習アプリを使ったり、タイピング練習をしようと考えていましたが、現実的には、学習より居場所のニーズの方が強くて、皆でPadを繋いでマインクラフトという人気のゲームをしたり、描画アプリで絵を描いたり、タイピング練習をしたりしていますう。さらに、そうしたことをユーチューブで発信できたらいいねということで準備を進めています。

梟文庫の性教育では、3つ企画しました。一つは、お医者さんのご夫婦をお招きして性教育のワークショップをしました。二つ目は性に関する本を集めてブックフェアを開催して皆で性に関する知識を共有しました。三つ目には多様化する生理用品の展示体験会を開催しました。基本的には公教育でカバーできないところを担っていきたいと考えていますが、性教育を選択した理由は、ネット上には性に関する知識や情報があふれていて、そのファーストコンタクトがとんでもないものであったりする状況は、一人の親としても危惧がありました。特に日本は性犯罪が多かったり、ジェンダーギャップ指数がドンドン下がっているという現状があって、子供たちが事実を知って、自分で考えて選んでいくという権利を保障していくことが大事かなと思いました。学校ではNGワードがあって教えられないこともあります。学校でできないのであれば地域でできることをしようということで始めました。

アクロストンさんという医師のご夫婦で東京で活動している方をお呼びして、小学生から大人まで発達段階に応じて1日に4回のワークショップをしていただきました。特徴は、毛糸を使って子宮を工作するなど、体験的に学んでいくということです。梟文庫でも体験的に学習するということを大事に思っていますので、どうしてもこのお二人に来て欲しいということでお呼びしました。医師ですので科学的に医学的に正しい知識を子どもたちに伝えるということ、そこから自分で性に対してどう向かい合うかということを自分たちで選んでいくということを大事にされておられます。結果、子供から大人まで50人くらいの方に参加していただき、とても満足していただきました。また、子供の年齢が上がるにつれて違う話を聞いてみたいとか、大人でも知らない話が多かったということで学び直しの場でもあったなと思っています。ブックフェアでは性の本を集めてきて展示をしました。これも今まで来られなかった方が来てくださったので良かったなと思っています。生理用品の展示体験会でも、大学生がグループで来てくださって、「こんなの知らなかった」という声をお聞きし、今まで、出会う機会のなかった人にも情報が届いてよかったなと思っています。

今の子どもたちは本だけではなく、インターネットで使って情報を得ることが多いので、梟文庫のホームページの「いろいろ情報室」にいろいろと紐付けて、性に関して安心して閲覧できるような知識をまとめたページを作っていますが、これも充実していけたらいいなと思っています。

これは宣伝ですが、3月22日(日)に「あそば春」というイベントを開催します。宝ヶ池の子どもの森で開催されるマルシェに出店して、今回は性教育に関する本を持って行って青空図書館をしようと思っています。もし、良かったらお越しください。

最後に、お願いです。梟文庫ではいろいろなワークショップやイベントを企画していますので、そういったことにご関心があれば、梟文庫で開催していただけたら嬉しいなと思っています。4周年の記念イベントとして「森のひとはこ市」を開催しますので、関心ある方がいらっしゃいましたらお手伝いをお願いします。また、性教育やラクエストも秋に別の形で開催しますので、繋がれる方がいらっしゃればうれしいなと思います。ラクエストで必要なタブレットやPCを譲っていただける方などの情報がありましたら是非、お寄せください。最後に、梟文庫はホームページやFacebook、インスタグラムで情報発信をしていますのでシェアしていただけたら嬉しいです。

というところで今日の発表とさせていただきます。ありがとうございます(拍手)。

 

<意見交換>

大島)オープンされた頃に京都新聞に大きく取り上げられたことを記憶しています。まず、基本的なことですが、開館時間はどのようにされているのでしょうか?

西尾)元々は、平日も開けていたのですが、子供さんたちの需要とマッチしなくて、平日は毎週水曜日にラクエストだけを開けています。図書館としての開館は、ワークショップやイベントに合わせてほとんど土日に開けています。

大島)なんで梟なんですか、しかも面梟。お好きなのでしょうか?

西尾)梟は森の哲学者といわれるように、知のイメージがあります。本を置いて、図書館で学びの場であるということで名付けました。

大島)利用される子供さんは、学区を超えて集まってこられると思います。小学生の頃は、習い事でもしない限り学区外の子どもと繋がる機会がないのですが、梟文庫に集まって来られる子供たちは学区を超えて繋がったり、お父さんやお母さんたちも繋がったりという効果は出てきているのでしょうか?

西尾)上賀茂学区だけでなくいろいろな学区の方が利用されるので、自然と繋がりが生まれています。

大島)以前、この場でミライブラリの村上さんが取り組んでおられる民間学童保育のお話をお聞きしましたが、そこでも、子どものクリエイティビティをくすぐるようなワークショップをされていました。平日、開館されていない梟文庫さんは、そうした学童保育的な機能は持たれていないということでしょうか?

西尾)個人で、子供さんの預かりをしていることはありますが、梟文庫として子供さんを預かるということはしていません。

 

坂口)そらいろチルドレンの坂口です。以前にもそらいろチルドレンにお越しいただき有り難うございます。改めてお聞きして、本当に興味深いお話を有り難うございます。私たちも不登校のお子さんを受け入れていますし、性教育についても検討を重ねています。また、みんなで作るみんなの居場所ということで10年近く活動してきたので、共感するところが多いお話でした。いろいろな方を講師に迎えて活動をされていますが、そらいろチルドレンとしても同じような取り組みをしたいと考えています。どのような繋がりでお呼びされているのか、また、今後、新たにどのような方を講師として考えておられるのか、どのような新しい取り組みを検討されているのかお伺いします。

西尾)講師の先生方は本当に偶然です(笑い)。私が探したのではなく、偶然出会った人たちです。いろいろなことができる人をどのように集めてこられるのかよく聞かれますが、元々は、私自身知らない方ばかりです。例えば、自然科学のワークショップのwata先生も知らない方だったのですが、開設当初に別の形で場所を利用していただいたご縁で繋がりました。それ以外の方は、会員さんのお友達という関係で、講師の方からのお申し出をいただいて来ていただいています。NPO法人スウィングさんのスタッフの方は、一緒に清掃活動(ゴミコロリ)をしていたという繋がりです。

大島)連携とかはしておられないのですか?

坂口)連携したいです(笑い)。今年、そらいろチルドレンを卒業する高校3年生の子が、スウィングさんに行くので、繋がりをもってやりたいなと思っています。よろしくお願いします。

西尾)はい。よろしくお願いします。これからの新しい企画としては、ラクエストの充実を図るためにデジタル系の講師の先生をお呼びして何かやりたいなと思っています。デジタルを規制するのではなく、主体的に付き合っていけるようにしていきたいと思っています。最近、デジタルシティズンシップということが言われていますが、そのワークショップができたらと思っていますが、講師の当てが誰もいないので、どなたか教えていただければ嬉しいです。

 

大島)中京区でまちづくり支援事業に採択されているグループで、保健師の方々が子育て支援の活動をされていますが、そこでも「子どもにどう教えて良いか分からない」と、性教育に対するニーズが凄く高いそうです。中京区と北区ではお母さんが置かれている状況が少し違うのかもしれませんが、そういうニーズの広がりが凄くあると思いました。梟文庫さんはお医者さんとも連携されていますが、そういう意味で連携できる相手はもっとたくさんいらっしゃるのかなと思いました。

 

寺田)現在、会員さんや子どもたちは何名おられて、どのように参加が広がっているのかお尋ねします。

西尾)やはり、お友達がお友達を呼ぶという口コミで来られる方が一番多いのですが、偶然通りかかってという方が結構いらっしゃったり、SNSを見て来られる方もいらっしゃいます。ワークショップは会員さんでなくてもだれでも来られるので、遠方からも来られます。現在、会員は50名弱です。

寺田)私設図書館の枠を超えて、多くのサポーターの支援や会員さんの共感を得て、居場所としての活動がドンドンと広がっていて素晴らしいなと思いました。今後を見据えて運営上の課題に思っておられることがありましたらお伺いします。

西尾)こうであるべきとか、こうしなければということがあまり無くて、最初は精神障害をお持ちの方々の居場所が地域の中にあったらいいなと思っていました。そういう意味では、そういう方々も来られていて、違和感なく交じり合っています。やりながら、出会って変わっていくというか、その都度考えているので、固定した課題というものはありません。でも、運営上のことでは、経済的な面でもう少し考えなければいけないとは思っています。日々の活動は回っていますが、大きなイベントをしようとすると助成金を取ってこないと成り立たない状況にあります。助成金をいただくといろいろな縛りが出てきます。今度、秋に予定しているイベントも今から助成金をどうしようかと考えています。そうした自転車操業感覚が課題といえば課題です。

 

大島)本の収集はどのようにされているのですか?

西尾)本は元々、持っているものを使っています。今度、助成金で購入し、充実していこうと思っています。

大島)寄贈を受けることは考えておられないのですか?

西尾)寄贈はすごく難しいと思っています。スペースが限られていることもあって、広く一般に募集すると、ブックオフ状態になるというか、いらないものを集めてしまうという結果になります。良く、寄贈しますとおっしゃっていただくのですが、今はお断りをしています。子どもたちに出会ってほしい絵本や児童書は、テーマを決めて集めていきたいと思っています。伊藤忠商事から子どもの本を購入できる助成金をいただいたので、テーマ選書をして充実していきたいと思っています。

 

荒川)有限会社キタ商事の荒川です。図書館機能のこの場所には、子供たちだけで来られるのか、親御さんと一緒に来られるのか、どちらが多いのでしょうか?

西尾)親子で来られる方も多いのですが、子供もだけでも来ていいよというようにしているので、子どもだけでも来られます。

荒川)加えて、子供さん同士の口コミというかネットワークはどのようになっているのでしょうか?

西尾)ワークショップであれば、よく来ている子が、全然知らない子を連れてくることはよくあります。

荒川)すごく素敵ですね。

 

大島)こちらの運営を手伝ってくださる方はいらっしゃるのでしょうか?

西尾)先ほどご紹介した講師の先生方は、ワークショップの講師だけでなくいろいろとお手伝いをしていただいています。

大島)ご自宅を兼ねておられるわけではないのですね。平日の放課後の時間帯に、管理していただける方がいらっしゃれば、子どもたちが学校から家に帰る前に、あるいは塾に行く前に本読んで行こうかというようなことができるのではないかと思われるのですが。

西尾)最初は、開けていたのですが、あんまり来ないという状況がありました。習い事で忙しかったり、いろいろな事情を抱えている子供たちにアクセスできていないということなのかもしれません。普通に開けていだけでは、取組が届かないので平日に開けるよりは、不登校の子供さんが来れる平日水曜日の午後に時間を決めて取り組むようにしました。

 

寺田)お子さんたちは、どの辺りから来られるのでしょうか。来られる範囲は決まっているのでしょうか?

西尾)遠くは鷹峯から自転車で来たりします。

寺田)お子さんたちの年齢階層はどのようなものでしょうか?

西尾)親御さんと一緒に来られる赤ちゃんから、上は我が家の娘で、中学生です。

寺田)梟文庫で育った子供たちが大きくなって、高校生や大学生になって、今度はサポートする側で関わってくれるような形が想定できるのですが。

西尾)そうなってくれたらうれしいです。

寺田)西尾さんは、京都のご出身ではなかったですね。

西尾)そうです、東京のど真ん中で生まれ育って、それこそ、町内会ってなんだという地域でした。結婚を機に京都に来てびっくりしました。地蔵盆とかとてもディープな世界だなと思いました。でも、子どが生まれてからは、マンション暮らしではなく、地べたでそういう繋がりがあったほうが良かったなと思いました。親が遠方で、相談したり頼れる人が近くに居ないので、地域の中に溶け込む方向でいろいろと活動していたら今につながったという感じです。コミュニティの中で育ってきていませんが、子どもが小さいときは、本当にコミュニティに支えられました。なにかお返しできることがあればいいなと思いながら活動しています。

寺田)看護師さんのお仕事は継続されているのですか?

西尾)離れてしまいました。学習支援のほうを少しやっています。

寺田)学習支援の仕事と、梟文庫の取組はどこかでつながるというか共通点のようなものがあるのではありませんか?

西尾)私の中ではすごく繋がっています。医療の現場にいないという意味では看護の仕事から離れているのですが、テーマはずっと同じで、そこが学習支援にも繋がっています。それを説明する言葉が見つからないのですが、私は、子供の支援ではなく、ずっと精神疾患を抱える大人の支援をしてきました。医療として支援の対象とするのではなく、その人自身が自分自身のことを知って生き易い環境を自ら作っていくことはすごく大事なことで、医療の世界でも当事者研究といって当事者が自分の困りごとを自分の言葉で語っていくことを大事にするという文化があります。そういった考え方のもとに今でも当事者の方と個人的にやっています。子供たちも幼児期というか、小さい時から自分のことを知って自分で学び方を身に着けていくことが大事だという考え方が根底にあって、そこで何かできることがあればということで、出会いもあって4人の方の学習支援のお手伝いをしています。

 

宗田)今のお話はよく分かります。日本では発展途上ですが、精神に障害をお持ちの方達の居場所を作って、いわゆるインクルーシブな社会を作っていくことが西尾さんのライフワークというかライフテーマになっていると思います。今日は、梟文庫だとか、ラクエストで不登校の子供たちのお世話をしたり、性教育に取り組むなどほのぼのとしたコミュニティをベースにしたお話でしたが、今後、メインテーマの方はどうなっていきますか?あなた自身、まだお若いし、経験もあるし、大学院まで行かれて勉強もされています。そして、この国でそれを作っていくことはとても大事です。私はイタリアの研究者なので、障害のある人と健常者が社会の中で共に生活するという取り組みがトリノを中心におこなわれており、日本でもそうなるといいなと思っています。今、発達障害を含めて、どこまでが病気でどこから先が普通なのかよく分からなくなっている時代ですが、社会全体で障害者と共に生きる社会を作ることが西尾さんのライフワークだとすると、今後、10年後、20年後、30年後にどうありたいですか?今は、大きな施設を作るよりもコミュニティから攻めていくことは良い方法だと思っておられますよね。西尾さんが地域社会と障害を持つ方との繋ぎ役になりさえすれば、西尾さんみたいな人が居れば、梟文庫のような小さな場所でも良い場所になるなということを実感として学習されたと思います。そこを軸としていくと、大きな公共施設を作っていくのではない方向で、どういう広がり方があると思いますか?夢を語ってみてください。

西尾)おっしゃるとおり、私自身も制度の中では生きづらいのです。医療の現場から飛び出してきたので、正直、不登校の子供たちと同じだと思っています。現行の制度の中では息がしづらいのです。でも、制度そのものを変えていくことはものすごく大変というか、外側からは無理だと思っています。10年、20年どころか何十年かかるかわかりません。それを待っているのは無理で、自分が生きる場所は自分で作らないとという思いはあります。正直、制度と向き合うことはしんどかったりします。今度、医療現場でお話をするので向き合わざるを得ないのですが、制度を離れて何ができるかということに答えは出ていません。一つの軸として、子どもたちの教育は非常に大事で、そこにコミットしていきたいと思っていますが、どういう形で進めていくのかということは、まだ見えていません。

宗田)もう少し頑張れば見えてきますよ。制度の中ではできないことができるかもしれない。制度の中にいる医師だとか先生たちが思っているほど、日本の社会はだめになってなくて、普通の人が社会の中で受け入れていく能力を持っています。子育てもそうです。学校だけで子育てをしているわけではなくて、子どもたちがちょっとドロップアウトしたとしても、まだまだ未発達ではあるけれども、社会の中には梟文庫のような場所がいくつか出来てきていてサポートしています。制度だけが世の中を変えるわけではなくて、専門家が知らない普通の社会の中に、サポートを必要としている人たちを受け入れて良い社会を作っていくエネルギーがあるかもしれないということに西尾さん自身が気が付きつつあるのではないですか?

西尾)それはそうだと思います。地域の中に選択肢を増やしたいという気持ちがあって、選択肢の一つであればよいと思っています。この取り組みを永続的にやっていけるのかというと、すごく難しいのではないかと思います。やはり公共的な制度であるべきことではないかという気持ちも持っています。特に学校の場合は、そこからドロップアウトしても良いと思いますが、その先につながる選択肢が本当に少なくて限られています。それを民間の力で、地域だけで取り組むということは経済的にも人材的にも全然足りていないのではないかと思っています。特に低学年の子供たちの場合は、居場所がないということは本当に深刻だと思っています。高学年になってくると、子供たちだけでお留守番が出来たり、梟文庫に自分たちだけで来ることができます。けれども、低学年のお子さんで、親が働いていると何も保証されないという状況があります。フリースクールもいろいろあれば良いですけれども、その教育スタイルは限られています。そもそも、学校が嫌だと言っている子供にとっては学校らしきところに行くことは精神的に負担が大きくて、そういう子供たちの居場所は本当に少ないのです。子ども食堂と一緒ですけれど、本当は制度的にきちんと整えて欲しいのですが、その代わりを地域で少しずつ担っているということが、本当に正しいのか、私には答えが見えていません。今は、それが必要なのでやっていますが、長い目で見たときには制度的に解消してもらいたい問題が沢山あると思っています。ですので、長い目で見たときに自分がどう動くべきなのか見えていません。

宗田)ただ、制度も変わるし、政治も変わります。政治にそんなに力がないということもあって、市民に動きがあればそれを取り込んで変わるかもしれない。だから、今、取り組んでおられることは、制度と対比するものではないのです。制度だと永続するけれども、西尾さんが取り組んでおられることは無理やり永続しなくても良いと思います。本来だったら税金でやらなくてはいけないことかもしれないけれども、行政のまちづくり助成金から始まって、民間の助成もいろいろと得て取り組むということも一つの方法で、一万分の一の大きさでやってもいいわけで、たぶん、そういう多様性が社会を良くしていく力になります。市民がそういう活動をしなければ社会は良くならなくて、公害も市民の力によって改善されたし、交通事故も減ったし、地球環境も市民の力で変わっていくという大きな流れを見てきたときに、今の活動は小さいかもしれませんし、永続しないかもしれませんが、西尾さんたちが得た知恵とか経験は必ず社会を変えます。必ず、その活動を理解し、共鳴してくれる人が出てきて広がっていきます。自信を持って良いと思います。

西尾)有り難うございます。

 

坂口)そらいろチルドレンの坂口です。私たちの目的は、子供たちが子供時代を思い切り満喫して、安心して大人になれる社会を皆で作ることです。そのために、ともに育ち、ともに遊び、ともに作るということを掲げて活動しています。子供たちと同じ目線で共に遊んだり、話したりして、親御さんと一緒に子どもたちを育み、また、親御さんや子どもたちと一緒に私たちも成長していくという社会を皆で作っていくということを目的にしています。今日のお話を聞いて、勝手に仲間だなと思いました。私たちも小さな力ですが、そういう社会を皆で作ることができるんだとしたら、その動きに少しでも貢献したいなと思っています。みんなで作っていく社会がどうなっていくか見えていませんが、次に来る社会というのは、すごいヒーローが現れるのではなくて、一人一人の小さな力が合わさって、新しい社会を作っていくと思っています。その小さな力かもしれませんけれども、梟文庫さんも私たちも、少しでもその力になれたらなと思っています。何度も言いますが、勝手に仲間だと思っているので、一緒に子どもたちが安心して過ごせる社会を作っていけたら嬉しいなと感じました。本当にありがとうございました。

 

寺田)それでは、それでは最後に西尾さんに大きな拍手で感謝したいと思います(拍手)。