古書と茶房 ことばのはおと 店主 中村 仁氏
典型的な少し小ぶりな町家を大きく改装することなく居心地の良い空間に仕上げ、静謐な空気の中で本を片手にゆっくりとお茶と食事を楽しむ。
<デザイナーからの転身>
京都市立芸術大学で油絵を専攻していたが、写真とか文字に興味を持つようになりデザインの仕事をしたいと思い印刷会社のデザイン部に入社する。そこで、仕事を覚えた後、1年後に独立しフリーで、10数年間デザインの仕事をする。一人で仕事をしているとパソコンに向かってひたすら作業をする日々が続くし、仕事のスケジュールもタイトできつかった。また、デザインの仕事は匿名性が高く、自分の仕事に対する社会や世間の反応が伝わってこないという思いもあり、人と触れ合う仕事をしたいなと思うようになる。カフェなどの接客業は自分の仕事に対するダイレクトな反応が得られ、楽しく仕事をすることができるのではないかと、転職を検討する。デザインの仕事で疲労した心身を癒すためにカフェ巡りをしていたことも、カフェを始める切っ掛けとなる。
ヨーロッパを旅行した時にそれぞれの都市の美しい景観に触れるにつれ、町の景観にも関心や疑問を持っていた。日本に帰ってくると中高層ビルが乱立し、電線が空を覆っており、京町家が並ぶ昔の面影が亡くなり町並み景観の乱れていると思うようになる。そういう中でもカフェの中の空間は洗練されており、素敵だなと思う気持ちがカフェの経営に向かわせる要因の一つになっている。
<先代の「ことばのはおと」>
2004年に油小路下長者町下るの町家で最初のことばのはおとを始める。お越しいただきたお客様にお店の本を手に取っていただき、その中の「言葉」の「音」のようなものを感じていただきたいという思いで「ことばのはおと」と名付け2017年まで経営する。
京都の出身で、元々、古いものが好きで、町家にも興味が湧いていた。実家は普通の家で京町家のことは知らなかったが、後に本などで京町家を知り好きになり、町家で何かの商売ができたらなと漠然と思うようになる。その頃に最初の店と出会う。店主自身、カフェ巡りが好きで、中でも古民家のカフェがすごく心地よかったので、この町家でカフェをすると心地の良い空間ができるなと思いカフェを始める。同時に本も好きだったので、カフェと古本屋をやろうと思って始める。最初は、古本の販売をしたが、愛着のある本を手放すことが寂しくなり、古本の販売を止め、店に置いている本を読んでいただくカフェとする。
<現在、そしてこれからの「ことばのはおと」>
前の店は家主さんのご都合で出なければならなくなり、半年間あちこち探したがこれはと思う町家と出会わなかった。たまたま友人からの情報でこの町家が空いていることを知り、見に来て直ぐに気に入った。前の店より少し小ぶりであるが、大きさもちょうど良いし、お庭も残っていた決め手となった。屋根も基本の柱、梁や壁もしっかりしており、内装も前の借家人の方がきれいにしておられたので、改修はほとんどせず、一部、柱を直しただけで、そのままで使っている。表の間を板の間に変え、1階と2階の表の建具を木製の建具に変えただけである。あまり、お店っぽくするのではなく、町家の空間のまま使い、町家の持っている暖かさを感じてもらいたい。
前の店の時からのお客様にも来ていただいているが、賑わいは前の店の方があった。けれども、この店の方がご近所との付き合いもあり、その点は良いなと思っている。西陣へのあこがれもあり、西陣の一員になれたと感じている。お寺も多く、表、裏千家のある小川通の町並みも美しく、生活もしやすいく、空気がゆっくりと流れている。町家暮らしも気に入っている。自然の素材に囲まれて暮らすと心も落ち着く。冬寒い、夏暑いということはあるが、それも四季を感じることができて豊かだなと思う。
口コミで広がり海外の方もたくさん来ていただいている。韓国、台湾の方が多い。今後も、続けられる限りこの店を続けていきたい。また、昔からのお付き合いのあるお客様の依頼でデザインの仕事も少しずつ続けており、これも継続していければ良いと考えている。
店名
古書と茶房 ことばのはおと
名前
中村 仁
住所
京都市上京区天神北町12-1
電話番号
075-414-2050
営業時間
11:30~19:00(LO18:00)
定休日
月・火曜日(祝日は営業)