工房 えんじゅ 代表 冨金原 塊氏
お店では、しっかりとした技術と研究に裏打ちされた淡い色合い三彩の陶器と主人の審美眼に適うセレクトショップが美しいハーモニーを奏で、奥の工房はうって変わってロックの香りがする。
<自らが納得する世界を求めて苦闘する>
熱い思いとクールな表情が同居する不思議な人である。京都生まれの京都育ちで、伏見工業高校金属工芸科を卒業後、幼いころ好きだったモノづくりに思い至り、陶工を目指し陶工訓練校、窯業試験場、信楽焼の工房と進むも、その後、祇園の「いづう」で勤務するなど2度、陶芸の世界を離れる。その都度、陶芸の世界に戻り、30歳を前に永源寺の工房で修行の傍らオリジナル陶器の製作や販路確保など独立に向けた準備を進める。
独立に際して、新旧住民のバランスの良い、落ち着いた立地を求めていた。知り合いの店が紫野にあり、お年寄りが多く落ち着いた雰囲気があり、西陣織など工芸に対して理解がある地域であることを知っていた。また、古いものが好きで町家に興味があり、北区、上京区で空き家の町家を探していて、4軒長屋のこの町家と出会った。
老朽していた町家を一人で改修し、ユーザーと直結することを目指して店舗併設の工房として、30歳で開業する。その昔、ロクロの天板は槐(えんじゅ)の木であり、当時、結婚式の引き出物を主な販路としていた関係で縁寿につながることから「えんじゅ」を店名とする。
<冨金原さんの独創性>
自身の作品のオリジナリティーには絶対の自信を持つ。他の作家の作品と並べても一目で自らの作品と分かることに価値を置く。土は信楽、工房で修行したロクロとタタラで成形し、徹底的に研究した釉薬で淡い色合いの彩色の陶器を提供している。店売り、インターネット通販、イベント出店、展示会でバランス良く売り上げる。
職人としてモノづくりに集中するだけでなく、商いや勉強、人との会話時間とのバランスが取れている方が有意義な人生であると考える冨金原さんは、単に職人であるだけでなく、多方面に触手を広げ感性を磨く。
<「ポーラスタ(北極星)」、新たな活動を求めて>
7~8年前にスウェーデンを旅行し、部屋ごとに異なる現地のクラフト作家、アーティストの作品を紹介するアートホテルに宿泊し、衝撃を受ける。その時、たまたま隣の部屋が空くこととなり、用途、改修自由という条件で借りて、「ポーラスタ」を開設することとした。1階を自らの眼鏡にかなうクラフトのセレクトショップ、2階をクラフト作家の展示会場等とした。今後、宿泊することも可能なレンタルギャラリースペースとしての活用を志向している。来店客の70%余りは欧米系の外国人が占める。金閣寺観光の流れてくる外国人に喜んで作品を買ってもらうための商品構成や仕掛けを検討中で、展示会などのイベントを積極的に開催している。
今、工芸の世界も大きく変化している。15年前にオープンしたときはWEBを使った仕事の展開が始まった時で、先駆的に活用した世代だった。今は、SNSの時代になっており、次の世代の時代という感覚が強くなっているが、自らの感性にマッチするものが見つかれば躊躇せずに取り組む意欲とエネルギーは大きい。この工房、店舗、ギャラリーも順次、魅力的な改修を手掛けており、町家改修のプロデューサーとしても一家言を持つ。