第21回西陣R倶楽部 話題提供 株式会社ステーション代表取締役(be京都 館長) 岡元 麻有氏
第21回西陣R倶楽部
話題提供 株式会社ステーション代表取締役(be京都 館長) 岡元 麻有氏
日時:令和2年1月20日(月)午後7時~午後9時
場所:TAMARIBA
皆さんあけましておめでとうございます。こんな寒い時期にお出かけいただきありがとうございました。
昨日、京都市長選挙が公示されました。これまでになく盛り上がっています。この西陣R倶楽部との関係でいえば、景観や町家も争点の一つになっています。市長が変わりますとまちづくりの在り方も大きく変わっていく可能性があります。そういう意味ではそうした歴史の渦中にいるわけです。次回のこの会では結論が出ています。その時にどのようなご挨拶をすることになるのか分かりませんが、いずれにしても、選挙が盛り上がり投票率が上がることは望ましいことですので、この2週間の論戦に耳を傾けたいと思います。
<話題提供:be京都 館長 岡元 麻有氏>
ただいまご紹介いただきました株式会社ステーションの岡元と申します。ギャラリーの名前がbe京都といいます。よろしくお願いします。先ほど、娘がご挨拶で内山と名乗りましたが、本名は内山で、旧姓で仕事をしています。be京都を設立して13年になります。その間に結婚をしましたが、名刺を変えたりするのも面倒なので旧姓のままで仕事を続けています。
今日は、be京都のご紹介をさせていただきながら、アート×文化×地域がどのようにビジネスに変わっていくのかということについて、私が気付いたことをお話をしたいと思っています。そして、皆様からもいろいろなご意見や示唆を頂ければと欲張っております。
be京都は、人が集い、学び、表現する場ということで、beは美しいの美と、be動詞のbeを掛けていて、美しい京都がここに存在するという意味を込めて名付けました。be動詞が主語によって変化するように、私が使うときもあれば、あなたが使うときもあって、他の誰かが使うときもあるので、そうやって常に変化していく場であってほしいと思って名付けました。実は、ビートルズのlet it beが好きだからでもあります。
築200年以上の歴史のある町家なのですが、上京区の新町通上立売上るで同志社大学の新町キャンパスの北側で、今、京都冬の旅で特別公開をしている尼門跡寺院の光照院の南隣にあります。とてもアカデミックで文化的な立地です。
be京都は文化・芸術が交流する複合施設で、表通りからアートギャラリー、そして京間の8畳間の続き間で16畳の広間、その奥にお庭があるという造りになっています。そこを全てレンタルしています。
ギャラリーは、吹き抜けの2階建てになっていますので、1,2階の高さを使った大きな作品の展示をしたり、1階と2階で別々の作品展が出来たり、世界からもいろいろなアーティストが来られますので、その際には皆さんと一緒にこの場でオープニングレセプションを開いたりできます。
和室の方は8畳二間が続き間となっていますので、建具を取ると16畳の広間になります。そこで子ども向けの生け花教室をやったり、書道教室や音楽会、茶道教室の他、身体を動かすような教室をやったりしています。定期企画としては月に1回、毎月第2土曜日から5日間「手づくり市」を開催したり、年に2回はポストカードコレクションという100人規模の絵葉書の展示会を開催しています。
こういう風に説明していくと「ああ、レンタルできるギャラリーでレンタルできる和室なんや。どこでもやってるやん」と思われる方が多いと思いますが、オープン当時は町家第二ブームといわれていたような時期だと思うのですが、町家を改修して、空いているスペースをギャラリーとして収益を上げようとされる方が非常に多い時だったかと思います。そこから時代が進み、つい最近では町家の再生は宿泊だとなって、ギャラリーよりも儲かるのではないかという時期もありました。
be京都が他のギャラリーとどう違うかということをお配りしたリーフレットにもまとめています。単純にレンタルすることもできるのですが、レンタルをして個展やグループ展をしていただく前の段階で、もっと皆さんが使いやすいように参加型の企画を2種類用意しています。第1段階として提供しているのが先ほどご紹介しましたポストカードコレクションという低価格で参加できる企画です。個展を開くには敷居が高いなと思っている方でも気軽に参加していただけます。第2段階としてプチ個展やアンテナショップを開催しており、アート系の方だけでなくグッズ販売の手づくり市向けの方の両方の要望にお応えしています。さらに第3段階として個展・グループ展を開催していただきます。第4段階としてこちらからオファーして開催する企画展を最高峰とするステップアッププログラムです。
当然、個展・グループ展だけで回転していけば収益は上がるのですが、できるだけ稼働率を上げるためにこうしたプログラムを提供しています。
和室の方は、時間貸しをしているのですが、「町家deお稽古」と名付けてお茶、お花など様々な定期教室を開催しています。月1回以上のレンタルを半年以上続けていただけるお客様にはレンタル料の割引を行っています。その他に、京都市教育委員会の後援をいただき「エデュケーションプロジェクト」と銘打って、夏休みなどの長期休暇を利用して、機材を持ち込んでいただいてステンドグラスや絵画など子供から大人まで共に学べる本格的なワークショップを企画しています。
他の町家ギャラリー等との違いは、企画力と文化芸術を組み合わせている点です。つまり、私が前職の広告代理店で培った知識と経験を生かして、文化をビジネスに変えていっているところです。私自身は、芸術を学んだこともないし、絵を描いたり陶芸ができるわけでもありません。そのことを隠すことなく、偉い先生方に分からないことをなんでも聞いて、それを素人なりに組み合わせて企画に生かしてきました。企画力と文化芸術を組み合わせると、これまでにはなかったことが現実化します。直近の例でいうと、京都西陣の伝統技術である「つめ掻き本つづれ織」でドレスを作りマカオで展示とパフォーマンスを行いました。また、昨年五月には、世界遺産の上賀茂神社を舞台に書道家の方と一緒にパフォーマンスを行うというイベントを実施しました。普段の仕事ではできないことを作家さんと力を合わせることによって仕事に変えるということにつながっています。
be京都の強みの一つとしてアーティスト支援の仕組みを持っています。絵を描くだけでは食べていけない作家さんに定期的な収入を確保するためのマンスリーアートレンタルという仕組みです。これは、原画をレンタルすると盗難とか破損というリスクがあるので、それを避けるために、高品質の複製作品をレンタルするという事業です。この事業で、京都府の文化ベンチャーコンペティションで京都信用金庫賞を受賞いたしました。京都信用金庫本店の他にもマンションのエントランスやパソコン教室に飾っていただいています。私が住んでいる上京区には図書館が無くて、図書館のように絵を借りる仕組みが作れないかなと思ったことが企画立案の切っ掛けです。いろいろと調査をし、作家さんのお話を聞いていくと、ヨーロッパにはアートテックというアート作品を政府が貸し出すという仕組みがあるということを知りました。それをもっと柔軟に日本流にアレンジしてアートを身近に楽しみつつ、作家さんもbe京都も潤うという仕組みを作り、新聞にも取り上げていただき細々と実施しています。需要は劇的には増えていきませんが、少しずつ引き合いがあり、作家さんからのお声掛けが増えていっています。
もう一つ大切にしていることが地域とのつながりです。私自身は、上京区役所の「ふれあいネットサイト・カミング」という地域住民が作成する地域レポートを発信するwebサイトの企画運営を受託しています。私自身もレポーターとして地域の方の取材をしたり、イベントに参加して、レポートを作成してアップしています。もう一つ、京都府の地域力推進員(ちーびす)の仕事もさせてもらっています。京都市を中心に府下の地域に根差した取り組みをされている方を応援する業務です。そんなことをしていると、マスメディアに取り上げていただく機会も増えていきます。自らプレスリリースを書いたりもしますが、仕事の紹介などを通じてメディア発信ができることが強みになっています。
けれども、オープン当初からいろいろな苦労をしてきました。結婚、出産し、子育てをしながら仕事をしたり、町家の立ち退き要請を受けて、いろいろと悩んだ末に最終的に購入させていただくことも経験しました。それを乗り越え得ながらbe京都を存続してきたことによって、だんだんと強い使命感が生まれてきました。今は、町家を守りたい、残したいということは当然ですし、ここを拠点の新たなことをいろいろと生み出していきたいと強く思っています。
この間、私が実感したことは強い信念をもっていれば、願えば叶うということです。子育ての初めのころは、土日は何も仕事ができないとマイナスに考えていましたが、この状況を逆手にとって子どもと一緒に参加できることを仕事にしようとか、自分も学びたいことを仕事にしようとか、人をマネジメントできるぐらい財力と強さを持てばなんでもできるのではないかとプラスに考えるようになりました。
持っているスキルを十分に生かそうということで、2階をフォトスタジオに改装しています。そこでは、新たなパートナーと一緒に「ニューボーン」という新生児や赤ちゃんの撮影を中心に運営しています。
そういうことをやっているとドンドンとご縁が広がってきて、be京都でオペラをやりたいというオファーを頂いたり、東福寺の塔頭である一華院さんを提携スペースということで受付窓口を任されたりしています。金沢にはbe金沢というところがありますが、be京都のコンセプトに非常に共感いただき熱烈なオファーをいただいて、名前を使っていただいています。金沢町家で運営しておられますが、この町家も解体するという話が出てきたときに、be金沢の経営者がギャラリーをやりますと手を挙げて活用されることになり町家が活用再生されることになりました。be京都としても応援しています。
昨年秋には会社の代表取締役にも就任しました。何が変わったということではないのですが、常にbe京都に居て、常に皆さんをお迎えし、送り出すという仕事を継続していきたいと思っています。
これまで、ご説明してきましたように、be京都はギャラリーと和室の運営だけではなく、企画や広告代理業の仕事も継続しています。BtoCの仕事が多いのですが、一般の方が悩んでおられることにちょっとだけアイデアを加えることで、大きく化けることを沢山見てきましたので、そのお手伝いが出来ればと思っています。
今日は、be京都のもう一つの顔で、マーケティングもやっていますということのご紹介を兼ねて、京都肉の試食会をさせていただきます。京都府の畜産課様のお仕事で京都肉のブランド化を推進していく事業の一つを受託されている会社さんからのご依頼で皆様に試食をしていただきます。今からお肉とアンケートをお配りします。お肉はローストビーフとすき焼きの2種類ご用意しました。
お肉の試食をしながらご覧いただきたいと思ってビデオを準備してきました。京都市の京町家魅力発信コンテストで作成した「町家デビュー」というものです。どうぞ、召し上がりながらご覧ください。
(試食タイム)
皆さんありがとうございます。ご記入いただいたアンケートは、後ろで回収させていただきています。
<意見交換>
大島)お話、ありがとうございました。代表取締役になられたということですが、新たに株式会社にされたということでしょうか。
岡元)元々、株式会社として立ち上げていまして、その中の事業の一つがbe京都です。主人が代表だったのですが、私も共同代表になったということです。
大島)立ち退きの話ですが、元々、賃貸で入居されていて、立ち退き話を契機に買い取られたということですが、今、そこにお住まいをされているのでしょうか。
岡元)敷地内に母屋と離れがあるのですが、離れの方に住みながら仕事をしています。
大島)立ち退きの要請があって、それを回避するには買い取るしかなかったのか、あるいは大家さんから積極的に買い取ってほしいということだったのか、どのようにこの町家のバトンタッチがなされたのでしょうか。
岡元)元々、町家を借りて住みながら仕事をしていましたが、突然、家主さんからbe京都を含めて隣接する4件の町家から立ち退いてもらうことになりましたというお手紙が来ました。新しい所有者は一部上場の法人だったので、悪質なプレッシャーもなく建設的な話合いをしていただき、その間いろいろと考えましたが最終的には購入することになりました。(京町家まちづくりファンドの認定を受けていたことが取り壊しを阻止することの大きな決め手になったと思います)
大島)1階部分のギャラリーと2階の渡り廊下のところを別々に貸すこともされているということですが、上手にコラボレーションができるような貸し方などもされているのはユニークだと思いました。例えばユニークな交流とか新しいコラボレーションが生まれたというようなエピソードがあればご紹介ください。
岡元)オープン当初は、区割りしてお貸しするということをコンセプトとしてスタートしましたが、時代が早かったのか、それは受け入れられなくてワンフロアーごとで貸し出すことにしました。けれども、もっと借りやすい形で運営できるのではないかと考え直し、7区画に区割りにする企画を立てると、非常に反応が良くて、学生さんでも借りやすくなるだけでなく、他の出店者のお客様も来ていただけるというシナジー効果も生まれて好評でした。そして、お互いの作品の良さを壊さないことを出店のルールとしました。
(展示やイベントの交流を通じて、ご結婚された方が3組もおられます)
安井)京都大学や精華大学の学生さんたちと一緒に町家の活性化について勉強している「まちらぼ京都」の安井です。まずは、どのような契機でこのようなことをされたのかお伺いします。次に、かなり広い町家を運営されておられますが、老朽化に伴う改修費の負担をどうするかということで活用することに二の足を踏んでおられる家主さんが多いのですが、当初の改修費や維持費についてどのようにしておられるのかお伺いします。最後に、いろいろな方のサポートの中でご主人の存在はどのようなものかお伺いします。
岡元)私は兵庫県の出身なのですが、京都に来る前は東京で仕事をしており、関西に帰りたいと思っていました。その時は、結婚していませんでしたが、同じ職場だった今の主人が独立するなら京都の町家で芸術家のための場所を創りたいと言っていたので、それなら一緒に大阪に帰ってこられるやんと思って「私、手伝います」といったのが切っ掛けです。ですから、13年前は京町家って何?という状態でした。京都には修学旅行の時に来た時の知識しかありませんでした。そこから、知らぬ間に館長の名刺ができ、責任者になっていました。
安井)その町家は探されたのですか。
岡元)町家は探しました。いろいろな不動産屋さんにも行きましたが、なかなかこれはと思うところが見つかりませんでした。実際に何軒か足を運んで見に行きました。もともと染屋の作業場で天井高があって良かったのですが、間口が狭いことがネックだったり、駅からの距離が遠かったりで決まりませんでした。そんな時に、たまたま歩いていて、なんやろここと思った町家が今の家です。当時は、表の開口部はアルミサッシになっていて、軒もグッと前に出されている状態で、ガレージに使っておられた物件でした。3年間くらい空き家になっていて草ぼうぼうでした。そこを覗いて見て、ここなんか良さそうやな。お寺の横にあるし面白そうやなと思って、管理していた不動産屋さんに電話しました。そして、たまたま、京都市のひと・まち交流館で、その話をメンバーで話をしていたら、その施設にある景観・まちづくりセンターが、第1号の町家ファンドの募集をされているのをたまたま知って直ぐにスタッフの方に相談をして、ぎりぎりのタイミングで募集に間に合いました。そこから図面を作成し、審査委員の方の現地調査の日程調査もできて、とんとん拍子に採択していただき、改修費の多くを助成していただきました。維持費はかかりますが、その中でどうしていくかは工夫のしどころです。改修工事で基礎の部分などは専門の大工さんにきちんとしていただかなければいけませんが、障子の張替や庭の手入れなどの日常的な維持管理は自分たちでやります。壁の修理などもできるだけ自分たちでします。最後に主人のサポートですが、本人は用務員やといっているぐらい、私のできないことや苦手なことはやってくれています。手を入れないと只の古い家になってしまうので、そういうところはきちんとやってくれています。
安井)レンタルアートという事業は、関西ではわかりませんが、東京ではそれほど珍しい事業ではないのではないかと思いますが、やはり、難しい事業なのでしょうか。
岡元)レンタルアートが珍しくないという発想をしていただけること自体がありがたいと思います。この事業を立ち上げる時にいろいろと調べましたが、過去の著名な作家の作品の貸し出しというのは結構やられていましたが、現代アートの作品の複製作品をレンタルするというのは、なかなか無いのではないかと思います。FM802が手掛けておられる「ディグミーアウト」という若手アーティストを発掘して世に送り出すプログラムの一環で、作品販売することがメジャーになりつつあった時なので、この企画はうまくいかないのではないかという懸念はありましたが、作家さんにとってはうれしい企画だったようで、作家さんのニーズの方が需要よりも多いという状況です。日本の中で壁に絵を描けるという習慣はあまりなくて、be京都がモデルとなって、町家の床の間に絵を描けてもおしゃれですよという発信をしています。また、北海道の恵庭市では一般市民から作品を募集して一般市民に貸し出しますという事業をやっているのを知って、もしかしたらこの事業はうまくいくのではないかなと背中を押してもらいましたが、京都の家は北海道ほど広くないので、美術館に掛けるような大きな作品を貸し出すという北海道スタイルはできませんでした。京都では小さい絵を求められるということが現実でした。それでも、徐々に広がりつつあります。
大島)他の施設との連携についてお伺いします。例えば、下京区のKAGANHOTELさんが、現代アートに特化して、レジデンスと創作の場と発表の場を一体の施設として運営しておられます。また、岡崎では、カフェをやられているところが、アーティストインレジデンスとしてロームシアター京都に来られた方を格安で宿泊させるなど、他と連携しながら高めあっているという取り組みが見られます。京都にはいろいろな大学もありますし、芸術家の卵の方達もたくさんおられます。そういう美術館とか大学や民間の施設と連携して高めあうということはやられているのか、計画されているのかお伺いします。
岡元)KAGANHOTELさんはすごいですね。行ってきまして、早速アーティストを紹介することにしました。うちには海外のアーティストの方がたくさんいらっしゃいますので、先ほど、マカオの話をしましたが、マカオの方も日本で発表したいということで、もう10年以上のお付き合いになるのですが、年に1回be京都で作品展をしていただいています。そのご縁で京都からマカオに行ったのが、先ほどご紹介した事例です。世界のアーティストは日本で学びたいし、日本の文化に飢えているということに気付きました。けれどもアーティストの方は、イギリスや香港でやっていることと同じようなことがどうして日本ではスムーズにいかないのだという思いを持っておられます。この夏から大学と提携しつつ、大学の夏季休暇を利用してアートプログラムを立ち上げ、できれば大学の単位認定までもらえるような仕組みを作れないかという風に考えて企画を立ち上げているところです。京都精華大学のカフェギャラリーには、作品を展示させていただいていますが、他との繋がりはbe京都に足りないところだと思っています。館長がbe京都に居てばかりで外に出られていないので、そこがマネジメント力のなさの要因だと思っています。スタッフが育たないと自分が外に出られないので、ご指摘の点は課題でもあり目標でもあります。
宗田)十数年継続するなかで、どんなアーティストが集まってきていますか。
岡元)目指している姿は、府外の方を7割、其のうちの半分を世界のアーティストにすることです。実際のところ、それが実現しつつあります。ただ、先ほど申し上げたステップ1、ステップ2くらいのところは京都の方が非常に多いし、学生さんが多いです。今、作品の発表の方法は本当に多くて、実際に見てもらわなくても公募展があったりとか、ネットで配信出来たりします。ですから若い方ほど忙しかったりします。そのため、立地の点で若い人を取り込んでいくことはbe京都にとって、難しいのかなと思います。その点、海外の方にとって他所よりアドバンテージがあるのは、アーティストサポートという支援システムを持っている点です。作品の荷受けをして、梱包を解いて作品展示をし、オープニングパーティのセットをしてできるだけ多くの方に来ていただきます。事故無く運営して、作品展が終了したら作品を梱包して送り返すというところまで一貫してサービスをします。そうすると海外のアーティストの方は、京都のいろいろなところを見に行ったり、人を訪ねたりする時間が作れます。展示期間中、作家さんが不在でも私が代わりに説明します。販売もしますので、大変に喜んでいただいています。私自身もそこで作品が売れれば利益が入りますので、積極的に海外の方をお招きしています。
宗田)ベネチィアとかフィレンチェで、海外のアーティストが半分観光で参加するアートビエンナーレが開催されるときに、地元のギャラリーが、今おっしゃったようなビジネスモデルで運営している事例を何軒か知っていますが、今、京都で観光客が増えてくることと連動して、うまいビジネスを始めておられるなと思います。少し気になるのは、ステップ1とステップ2のところで、手づくり市とかの作品も飾ってもらっても良いとおっしゃいました。今、お寺や神社での手づくり市と、バーチャルな空間でのインターネット販売の中間のような、かといって固定的なお店ではない販売方法が生まれてきています。また、売っているものもアートと手づくりの中間のようなものが新しいジャンルとして生まれてきています。上京のこの場所でbe京都という非常に個性的なお店を展開しておられる。アートに走ったり、外国に行くことも一つの方向ではあるのだけれども、足元の上京とか北区界隈には、手づくり市からステップアップしてきたアート志向の方達が結構いますよね。そういう人たちからもリクエストがあると思いますが、その可能性はどのように見ておられますか。
岡元)be京都で行っている毎月1回の手づくり市は、神社とかで行うものと比べてお祭り的な要素は少ないのですが、屋外でやるのではなくて、屋内でやる手づくり市であるということが一つと、なおかつ、お申し込みに際しては少なくとも3か月間は申し込んでいただくことを条件としています。それは、作品のファンを一人でも作っていくためです。スポットライトが完備された屋内の空間でこちらで準備した展示台やクロスを使っていただくことで、自分の作品をより魅力的に見せることができるようにしています。
宗田)今の話だと、手づくり作家さんが、be京都で岡元さんにキュレートしてもらってアーティストになれるみたいなところがあるじゃないですか。ただ、手づくり市で物々交換をしているのではなくて、アートとしてギャラリーで展示することによって、あなたの手づくり作品が成長していきましたみたいなプロセスを演出したいわけですよね。
岡元)そうですね、はい。
宗田)そうすると、ただ作品を展示するだけでなく、ギャラリー本来の役割であるアーティストを育てるということをやりたいと思っているのではないかと思いますが、寺の横のあの微妙な立地も海外の方向けには良くて、手づくり市もばかにならないプログラムですね。アーティストを見出すというか、このステップの考え方はよくできていると思います。アーティストと一緒に成長できる場所がbe京都なのですね。
外村)作っている側にすると販売していただけるとすごく助かりますが、京都に限らず、日本では、家に飾るという習慣とかなく、それなりの金額でもあるので、なかなか買ってもらう場がありません。手づくり市のような数千円のオーダーならいざ知らず、純粋に絵とかになると難しいと思いますが、そのあたり、長年取り組まれていてどんなふうにお感じになられますか。
岡元)全くその通りだと思います。なんですけれども、やはりそこは、プロデュース力であったり、人間の魅力を作品に移したものを誰かの言葉を使って販売をする表現力であったり、その時に出会った作品の周りの空間や環境とか空気のすべてが販売につながっていくと思います。私が広告代理店に居た頃に「100万円の壺が売れますか」という新人研修がありました。課題を出したほうは売れないだろうと思っていたわけですけれども、私は「100万円の壺、売れる気がするな」と思いました。実際、今、100万円の壺を普通に扱っている中で、なかなか売れませんが、be京都の中で一番高く売れた作品が120万円の作品でした。それで、私にも絵が売れると思ったのがbe京都を立ち上げて1年目だったのです。それが凄く自信につながりました。売れないと思っていたら何も売れません。ただ、手づくり市の中で、120万円のものを売ろうと思ったらそれば無理なのです。やはり、陳列の方法や照明の当て方など工夫が必要です。120万円のものを売ろうと思ったら、卵と牛乳が必要です。いわゆるスーパーでいう目玉商品です。そういうものがあって、やっぱりこれが欲しいと思ってもらえるフラッグシップのように見えるように見せ方や戦略が必要になります。それを作家さんと一緒に考えていきます。be京都の展示企画の最高峰を企画展としたのはそのためで、ギャラリーと一緒になって作品を売るために考えていきましょうということです。絶対に目標金額を達成しましょうという強い思いをもって企画しないと成功しないので、そこは考え方を少し変えて取り組みます。そうすると売れないと思っていたものが売れたりします。勿論、中には売れると思っていたものが売れなかったりすることもあります。
外村)岡元さんのような考え方の方がいらっしゃったら、育つアーティストも多くなるなと思います。アーティストは作るほうに専念できます。そして、つながりを作ってもらえるということはありがたいなと思います。
宗田)最後は日動画廊のような存在になってほしいですよね。
岡元)いろいろな状況がありますので、今は、皆さんの前で堂々とお話をしていますが、お付き合いが続かない作家さんもいらっしゃいます。けれども頑張ってやり続けていきたいと思います。
大島)現代アートというのは、原価法で価格が決まるのではなくて、ある意味、投資的な側面もあると思います。その為には投資してくれる人を増やしていくことが必要になると思います。例えば、不動産業のハチセさんが町家検定をやられて町家を理解する人のすそ野を広げられました。一方、KAGANHOTELさんは2月上旬に現代アートを徹底的に学ぶという合宿をされます。現代アートは系譜で理解していかなければならなくて、その物語を理解できないと現代アートを理解しづらいという中、格安の現代アートの合宿をやることによって、そのすそ野を増やしていこうとされています。そういう意味では消費者を育てていくということが大事なのだと思うのですが、be京都さんで、そういうすそ野を広げるための活動などを検討されたり、しておられたりしますか。
岡元)「暮らすように楽しむ美術塾」といって、陶芸作家さんが日常で使っている陶器を使ったり、床の間の設えやお庭の見方など、be京都の和の空間を生かして学ぶ会を開催していました。今は先生のご都合で休会中です。そういう会には皆さん着物で参加していただいてすごく良い時間を過ごすことができました。今のお話をお聞きしてすそ野を広げるということの大切さを再認識をさせていただきました。ありがとうございます。
寺田)海外のアーティストの方の出店割合を増やしていかれるということですが、来られるアーティストの方が、定着しつつ新しく増えているのはbe京都での展示企画に満足されているからだと思います。それは、売れていくからなのか、それとも京都で展示会を行うことそのものに満足されているのかどちらでしょうか。
岡元)おそらく、後者だと思います。というのも販売を積極的にされない方も少なくありません。日本在住の作家さんは販売をしなければいけないのですが、海外から来られるアーティストさんにとっては、京都の京町家という雰囲気の中で西陣織で作った暖簾をバックに皆さんで集合写真を撮ることなどは、とても魅力的なようです。また、町家を改装した展示空間のクオリティは他の画廊さんよりも高いと思いますので、満足度は高いと確信しています。もちろん、自然光が入るのが嫌だとかいろいろなご指摘はありますが、おおむねご満足いただいていると思いながらも、ご指摘には耳を傾けているという状況です。
寺田)この界隈には、小さくて老朽化した長屋町家が沢山ありますが、そういうところを目指して、若いアーティストが移住してこようとする動きは無いのでしょうか。
岡元)私自身、地域を活性化したいという思いはずっと持っていて、そうするためにはどうしたらいいのかと考えてマップを作ったりしたこともありますが、やはり協力者が必要で、一人で盛り上がっていても上手くいかないなと反省しています。とりあえず自分は元気でいようと思ってbe京都を運営しています。けれども、今、どこの地域でも少子高齢化で子供の数が少なくなり、独居の老人が増えてきて空き家が増えてきて、どうなっていくのだろうかと真剣に考えたりします。今、娘が通っている室町小学校は、全校児童数が280人位しかいません。マンションが建たないと人口は一気に増えませんが、マンションが欲しいと思っている人はほとんどいなくて、昔ながらの町家が多く残っていて、徐々に戸建ての建て替えが進んできています。そういう上京区はどうなっていくのだろうと思った時に、もしかしたら上京区には人が住まなくなって、文化的な施設だけの町になるのではないかと思いました。先ほど、上京区には図書館が無いと申し上げましたが、今後、図書館ができて文化施設がもっとたくさんできて、小学校は廃校になって跡地が活用されていくのではないかなと思った時に、今の京都のまちづくりは間違っていないと思ったりします。若手の方をはじめ、いろいろな方に町家を活用して欲しいのですが、もっと文化の薫り高い町に変わっていってほしいなと思います。私にはもう一つ構想があって、いつか上京に暖簾街道のような形で、西陣織の美しい暖簾が町を飾る綺麗な町並みができたらなと思っています。
宗田)その発想は、とても頭の良いことだと思います。さっき100万円の壺の話が出て、アーティストでないのが私の特徴だとおっしゃっていました。アーティストがいる町の中で広告代理店出身の私が画廊経営をやっているわけですよね。そのことによって、アートの町ができるわけです。アーティストがいても画廊が無いと、アートの町にはならないわけです。だから、be京都のステップアップモデルはとてもよくできていて、自分の特徴とギャラリーの役割をちゃんととらえて、アーティストを育てる画廊のお話をしていただいたわけです。最後の暖簾の話がとても面白いと思ったのは、パリのカルチェラタンには小さなギャラリーがいっぱいあって、手づくり市から世界的なアーティストの作品まで並んで、まさにステップアップしているんですね。そこでは、暖簾ではないけれどもバナーをそろえて、9月から10月にかけて、カルチェラタンのアートフェスティバルをやります。大きなサロンではなく町場のギャラリーが集まって開催します。ギャラリーにも作家にもグレードがあるので、だんだんとステップアップすることによってアーティストが育っていきます。それがカルチェラタンだと分かっている仲間が集まっています。まだ、上京はその段階には至っていませんが、ギャラリーが増えてくることによってアーティストとギャッラリーがコラボする形が見えてくれば、現代アートをやっている人の人口密度が高いし、美大も多いので、そういう可能性を見出して、アートなまちからギャラリーのまちへという未来への道筋を描けるということはさすが広告代理店出身だけのことがあります。
岡元)そんなに褒めていただいてすごくうれしいです。
寺田)ご質問等、無いようですのでこれで意見交換を閉めさせていただきます。最後の感謝の意を込めて岡元さんに大きな拍手をお願いします。
(拍手)