太田畳店 代表取締役 太田 成樹氏

大正期の建築と思しき京町家を改装して畳工房としている。高い技術を持つ明日の名工であり、寺院の仕事をする一方で、新しい商品や市場の開拓を図る新しい職人でもある。

 

<西陣の地で3代目>

昭和14年に現在地で岐阜の鉄砲鍛冶を先祖に持つ祖父が創業し3代目となる。先代の父親を親方と呼び、父子で高い技術を評価され、お寺や文化財修復の仕事を受けながら一般のお客さんと工務店・管理会社からの注文が半々という。

高校卒業後、太田畳店の方針で畳とは縁のない電業会社で4年間修行し、17年前の22歳の時に店に戻り、畳職人の修業を始める。京都畳技術専門学校で3年8か月の間、全国から集まった仲間と共に学ぶ。店に丁稚として入って学校に通うというスタイルで、実地は店で基礎は学校で学ぶ。学院で2年間、より専門的な研究科で1年8か月学び、2級技能士を取得する。

父親は専門学校の元学院長を務め、京都府現代の名工、全技連畳マイスターなどの称号を持ち、本人も京都府明日の名工、京もの認定工芸士など多くの資格・称号を持つ。

<不易流行の匠>

かつては、藁を圧縮した畳床しかなかったが、20年くらい前から様々な畳床が出来てきた。藁と藁の間にポリスチレンフォームを挟んだスタイロ畳が軽くて藁床の感覚に近い。さらには、インシュレーションボードといって細かく破砕した木材を圧縮したボードを使用する畳もあり、インシュレーションボードだけで作る薄い畳床もある。

畳床は床屋から仕入れるが、藁床は滋賀県の甲賀の会社から仕入れている。人が沢山訪れるお寺などは、スタイロ畳は、人の重みでへこんだままとなるので藁床を使う。一般のお客様でも天然志向の方は藁床を指定される。

畳表は、基本的には熊本から仕入れる。熊本に営業所のある石川の問屋から仕入れることもある。石川には小松表という日本で最北端で畳表を作っているところがあり、畳表の目利きが効くので安心して発注できる。自ら、年に2~3回、現地調査という名目で熊本に行って、イグサ農家のお手伝いをするなどして、いざという時でも仕入れられる関係づくりをしている。イグサ農家の数は30年前に5,000軒であったが、今では290軒にまで激減している。中国製も減っており、今はベトナムで試験栽培をしているが成功していない。最近は和紙の表やビニールの表も出てきている。最近はやりの縁無し畳の場合、畳表を折り曲げることになり、イグサだと折ったところがボロボロになるので、和紙の表を使っている。

縁は岡山から仕入れている。黒とか無地とか寺で使うようなものは富山のメーカーしか作っていない。1社しかない弊害で質が落ちて、柄が斜めに織りあがってくる。縁に仕上げると、隣合う畳の縁の柄がずれてくるので、微妙に調整しながら仕上げる必要がある。素材は綿か麻で、化繊は使わない。

京都の畳づくりは関東とは異なり、いわゆる京都式という作り方をしている。一言でいうと、丁寧で長持ちし、使いやすい畳を作っている。一例として、畳の端を京都式では斜めに切り落とす。そうすると、畳を敷きこむ際に、下の方は隙間ができ、上端はぴったりしているので、畳を無理やり押し込むこともなく綺麗に敷くことができるという。また、畳表の端部の処理が関東では切りっぱなしであるが、京都では、カラクリといって糸を残してイグサを外し、その糸がほつけないように別の糸でかがっていく。さらに縫い方も異なる。肘を使って締め上げるのは関東のやり方で、京都では普通に塗った後で、畳をひっくり返して、足を使って締め上げるという方法をとる。全日本畳技能グランプリの審査員をしていた親方曰く、京都式を基準とすると関東式の職人は全員落第となる。それくらい別物であるという。元々、畳床の端部には板入れといって、厚さ数ミリメートルの杉板を縫い付ける。京都は糸をV字に縫い付け、最後の仕上げで締め上げてもずれないようにしているが、他の地域では、I字に縫うので板がずれてくる。昔、藁を重ねて杵で叩いて藁床を作っていた時は端部が処理できないので板付けをしていたが、藁床を機械で縫い付ける現在では不要の技術となった。

しかし、神社などのご神体等を置く高さ20センチメートル位の台やお寺さんの分厚い畳を作る際には、この技術が必要となる。板を入れて縫い付けて、厚みを確保しながら角をきちんと処理していくことができる。

<交流そして新しい出会い>

今年2月のギフトショーに出展した時に、寺院専門のカタログ販売の会社と知り合い、カタログに掲載されて以降、社寺からの仕事が増えてきている。「四天拝敷(してんはいしき)」を作ってくれるところを探していた禅宗専門の仏具屋が太田畳店のホームページを見て60枚の制作依頼があった。一畳~半畳ほどの敷物で、四隅に四天王を配置する代わりに大きな縁を配置している表裏が畳表の敷物で、禅宗のお寺で使用される。そのことをfacebookなどで発信していると、寺院専門のカタログ販売の会社が見に来られた。

ギフトショーには西陣の金襴の縁を使ったミニ畳も出品した。京都産業21が認定工芸士に誰か出展しないかと声をかけてきたので出品したもの。この界隈が聚楽第の跡地であるということで「壽楽臺(じゅらくだい)」という商品名で出展しているとしていると、KBS京都の京bisXのスグレモノで取り上げていただいて注目されたこともあり、清水焼の陶あんさの陶器を始め、様々な商品と抱き合わせで販売されている。陶あんさんは京都信用金庫の紹介だった。昨年初めて京都中央信用金庫のビジネスフェアに出展し、ジョブパークの方から陶あんさんに営業することの提案を受ける。全く伝手が無かったので、手紙を書いていたところに京都信用金庫の方が来られて、紹介していただくことになる。

寿楽臺を作り始めた3年前は、ひどい経営状況で、店を止めようかと思っていた時期である。娘が小学校に入学するのでランドセル代くらいは稼がなくてはと思ってこの商品を作って店頭に並べたことから始まるが、思った以上の反応があった。

<畳文化の復権を展望して>

本業の畳も少しずつ復活してきており、特に縁無しのカラー畳が増えてきている。親方はそういう畳は苦手なので、奥でお寺の飾り物などを製造している。300年前の輿が出てきたから、それに合う畳を作って欲しい。あるいは150年前に作って以来開けたことが無い祠の跡形もなくなった敷物を新調してほしいなどという仕事である。どうやって作ったのだろうかと文献などを研究することからはじまる。半年考えている時もある。そういう意味ではお金にならない。神社の敷物は神職名鑑という書物に詳細に制作方法が記載されているが、寺にはそういうものが無いので一から考えて作っている。5年ほど前に聖護院さんに呼ばれて行って見ると、畳半畳ほどの綿の塊を見せられて復元して欲しいと言われた。「日之御座(ひのござ)」ですかというと、数百年前のものだと言われた。綿と金襴の縁の金だけが残っていた。ゴザを8枚縫い合わせて厚さ3センチメートルにして、周りの枠からはみ出ないようにして、その上に綿を重ねるものである。今のゴザでは厚すぎるので、それをどうしたものか考えている。高僧が儀式の際に着座されるものである。帝が使われるものには繧繝縁(うんげんべり)を使わなければいけないが、色々な種類があり、文献などから最も近いと思われるものを使用している。このポスターは親方が20年前に改修工事に伴い畳を入れた聖護院の寝殿であり、先日、弟子にあたる当代が裏返しをした。

この畳床は丹波裏という専用の太くて強いイグサを使ったゴザが縫い付けてある最高級品の床だが、今ではこのゴザは誰も作っていないのでこの床は作れない。縁下紙(へりしたがみ)も今年廃業されて、同じ品質のものが入手できなくなった。経営不振だからではなく制作器具が壊れてそれを修繕できる職人がいなくてやむなく廃業するケースが多くなっている。畳床を作る機械でも一緒で、昔の機械の方が単純で良い仕事をしてくれる。この作業場にも3台を置いているが、廃業した畳店から余分に2台入手して、そこから部品を調達して自分たちで修繕しながら仕事を継続している。

 

来年2月~3月にロシアで仕事がある。材料を先に船便で送っておいて、向こうで手縫いで全部仕上げるという仕事である。クリミアはロシアによるリゾート開発中であるが、そのホテルの中に日本庭園があり、2年前には茶室を作りに行ったが、今回は日本の雑貨屋を作るという仕事である。ショーケースの中の畳2枚の仕事である。

10年前の水準までは戻っていないが、少しずつ良くなっている。お客さんとの繋がり方が変わってきている。今では京都商工会議所に入ったり、西陣サロン、そして西陣R倶楽部に入れていただいたりして、できるだけ色々な方と知り合いになり、色々な話を聞くことによって、新しい仕事や違う世界の技術の習得に繋がったりしている。たまには仕事を依頼してくださる方とも出会える。

最近では、空き家再生や町家の再生と活用が盛んになって補助金も出てきているので、暮らしの文化を見つめなおして、もう一度、畳が復権すればよいと思うようになっている。少し前までは海外進出を展望していたが、今は日本人に畳の文化を見直していただけるようにしていきたいと思っている。畳は海外で有名だと思っていたが、行って見ると思っていたほど有名でもなかった。茶道文化にくっついてお茶室を作るから畳が必要になっている。海外の茶道をやっている方が京都にやって来るから畳の話が通じる。それなら、茶道や華道の方に頑張っていただくなど、日本人に畳の上で生活してもらって、畳は良いモノだと思い出してもらえるようにしていきたいと思っている。海外にも畳だけ持って行っても評価されないので、日本の文化を持って行ってもらえる人が育って欲しいと思っている。

店名

有限会社 太田畳店

名前

太田 成樹

住所

京都市上京区上長者町通智恵光院西入る高台院町556番

電話番号

075-451-8647

営業時間

9:00~18:00

定休日

webサイト

http://ootatami.p2.weblife.me/index.html/

その他

https://www.facebook.com/ootatami