第9回 西陣R倶楽部 話題提供「マドリズ」

第9回西陣R倶楽部
話題提供 手描き図面工房 マドリズ 大武千明氏
日時:平成30年11月19日(月)午後7時~午後9時20分
場所:TAMARIBA

<会長挨拶>
私は建築家で、町家の再生などにずっと携わってきています。一方で、今、京都府立大学で和食文化研究センターを任されていまして、京都の料亭、料理屋さんの和食文化を高めるということをやっています。高名な大工である中村外二の仕事で有名なのは俵屋旅館と菊井などがありますが、京都洛北の花背の奥にある美山荘も中村外二の作品で、今日、お伺いしてきました。なかなか予約の取れないお店ですが、お庭とか建物の細部に美しさの宿ります。修験道の寺である大悲山峰山寺の門前茶屋で、元々は、白洲正子さんの著述にあるように摘み草料理といって山菜とか野草を上手に料理される料理屋さんです。そのブランドを生かし、休耕田を活用して美しい山菜、野草をつくろうというプロジェクトで京都府の農業試験場の先生方と一緒に伺っていました。
そして、この西陣という地域は京北に行こうが美山町に行こうが、美しい自然、山の魅力が間近に迫っていて、これが、この地域の魅力の一つだと実感して帰ってきました。今度は、京都、西陣と京都の山をつなごうと考えておりまして、皆さんにもご協力いただきたいと思っています。
今日は、どうぞ、大武さんのお話をご堪能ください。

<話題提供>
ご紹介いただきました大武です。本日はよろしくお願いします。今日は、今やっている私の活動をご紹介します。個人事業で「手描き図面工房 マドリズ」という屋号でやらせていただいています。
初めに、いくつか作品をご覧いただこうかと思っています。今、映っているのは「ひつじの京都銭湯図鑑」という私の処女本です。大阪の創元社という出版社さんから出させていただきました。京都の銭湯を全て私のイラストでご紹介させていただいています。銭湯を真上から見た間取り図のような形で描かせていただいています。若い世代の方は、銭湯に行ったことがないという方も多いので、こんな風になっているんだ、こんなんだったら行ってみたいなと、思っていただくきっかけになったみたいで、この本を片手に銭湯を巡っていただいている方も実際にいるみたいで、うれしいなと思っています。このほかにも、こんなことをしていますということで、これは、千本今出川の近くにある京町家を上手に活用したゲストハウスで、私が以前、住み込みで働いていた木音というところの間取り図です。手描きにすると、ウナギの寝床である町家の特徴や宿の雰囲気をしつらえをターゲットにしている若い女性にうまく伝わっているのではないかと思います。こちらは、古民家を改装せずに販売されるという不動産会社さんの案件です。改装されてないとボロボロの状態なので、どういう風に改装することができるのかというイメージがあったほうが購入してもらいやすいのではないかということで使い方の提案をしたものです。オクドサンがあって、土間が広いので作家さんに住んでもらえたら良いのではないかということで、染織作家さんをイメージして描かせていただきました。こちらは、お手元にもお配りさせていただきましたが、千本中立売にある西陣京極のイラストマップです。京都市の商業振興課さんからお話をいただきました。商店街活性化の一環として西陣京極会に加盟する商店の紹介するものです。ここには、たまたま京極湯という銭湯があり、こちらのご主人が西陣京極会の会長をされていたので、打ち合わせが非常にし易く、お風呂に入りがてら、相談をしながら作ったものです。取材をするとお風呂もお勧めなのですが、カウンターだけの小さな飲み屋さんが多く、人と人との距離がすごく近くてアットホームな感じで、ほかのお客さんやお店の人とすぐに仲良くなれるという人情味あふれる町です。このマップを片手に町歩きをしていただければ幸いです。

こうした仕事をするようになった経緯をお話しします。大学院で建築やまちづくりについて学んできました。まちづくりについては、商店街の活性化に取り組み実際に商店街に入りながら、商店主の方々とお酒を飲みながら親しくしていただき、イベントのボランティアをする一方で、町並み景観を整えるということでお店のファサードデザインの提案など実戦的な経験を積ませていただきました。卒業後は、住宅メーカーに勤務して4~5年くらい設計業務に従事しました。会社が手描きで図面を描くことを重視していました。実施図面はキャドで作図しますが、プランニングの段階でアイデアを出すときは手を動かしたほうが良いものができるということで手描きを重視していましたので、そこで手描き図面のスキルを身につけることができました。その後は、いろいろな仕事を経験する中で、先ほど紹介しました銭湯の本を出版させていただいたことを契機にあちこちから仕事のお声掛けをいただくようになって、今年の春からフリーランスとして独立して、マドリズクリエーターと名乗っています。住宅メーカーを辞めた後は、京町家のゲストハウスに住み込みで働くことが切っ掛けとなって京都にやってきました。その後、シェアハウスの運営会社に契約社員として勤務した後、京都市役所に非常勤職員として勤務し、密集市街地対策、路地対策として防災まちづくりの仕事をさせていただきました。
そういう経緯で今の仕事をしていますが、建物やまちは生き物みたいだなと思っています。町家も確固たる様式はありますが、住む人とか建築されているエリアによって、それぞれの町家に時間の経過とともに個性が表れます。そういう町家の生き様とか個性を表現してあげたいなという思いでイラストを描かせていただいています。設計の仕事は一つの案件に何か月もかかりますが、私は、その中でもプレゼンの図面を描くところが一番楽しいなと思っていました。今は、その一番楽しいところだけを抜き出して仕事をしているということになります。

間取り絵図に注目している理由は、間取り図好きな人が結構多くて、楽しいなと言って見ていただけます。そういう前向きな気持ちでかかわってもらえる人たちとともにやっていけたらいいなと思って、屋号もマドリズとしています。また、銭湯の本を見て行った気になれるとか、町家がウナギの寝床とわかるような全体を表現することができることで建物の個性を表現しやすいツールだなと思っています。
描き始めた切っ掛けですが、銭湯にはそれぞれに個性があって面白いと思うのですが、写真が撮れる環境ではないんです。それでも、銭湯の面白さをFacebookなどでみんなに伝えたいという欲求は高まってきます。何か方法はないかと考えたときに、イラストだったら問題ないかなと思いつきました。建築も学んでいたので、間取り図という形で描ける、そうしたら全体も見ていただけるのではないかと思ったことが切っ掛けとなって生まれました。

これから、制作の過程を見ていただくために動画を用意しましたのでご覧いただきます。(会場のパソコンが動画対応になっていないため、大武さんのパソコンに接続するために、しばらく中断(笑い))
最近はアイパットを使って描くことが多いのですが、アプリの機能で描いている様子を動画で記録し再生してくれるんです。アイパットで描くとレイヤーの設定ができるので非常に便利です。最初の下書きのレイヤーに下書きを描いて、そして、その下書きを薄くしてその下書きの上に清書して、文字のレイヤーも別に作り、そして文字のレイヤーを外してから色付けをしていきます。

(動画再生が始まる)最初は、まっすぐな線を定規で引きます。細かいところは色を変えてわかりやすくしながら描いていきます。ある程度描いたら、次にフリーハンドで描きこんでいきます。下書きはざっくりとして、細かいところはフリーハンドで描きこんでいきます。文字は、背景を薄くして書いて行って、それから、文字を一旦消して、色塗りをしていきます。(面白いので再度、再生の要望)。細部については、写真をいっぱい撮ってきて、それを見ながら描きこみます。アポイントをとって、営業時間前に取材に行きます。その時にいっぱい写真を撮ります。特に男湯のほうは、チャンスが少ないので取り落としの無いように念入りに撮影します。
建物単体だけではなくて、まちづくりという視点でも活動をさせていただいています。自分が住んでいる上京区の出水学区で自主防災会の役員をさせてもらっていたり、「出水だより」という地域の広報誌の編集をさせていただいています。いろいろな地域で広報誌を出しておられますが、その力の入れようは様々です。地域の行事予定だけを書いたものも多いのですが、出水学区では、地域の方々にどんな情報を届けたら良いか、どうしたらわかりやすく伝えることができるか、意見交換をしながら取り組んでいます。有隣学区さんでは、空き家活用のパンフレットを製作されていまして、その中のイラストを担当させていただいています。こちらも取材に同行させていただいて、空き家を活用されたオーナーさんの経緯などをお聞きしました。出水学区と有隣学区は、京都市で勤務していた時に担当していた地域なので、退職したらそれっきりというのもさみしいので、引き続きまちづくりに関わらせていただいています。あと、大学時代にお世話になっていた愛知県の豊川稲荷表参道商店街も引き続き関わらせていただいています。最近は、豊川市役所の方からお仕事をいただいて、商店街界隈の空き家対策事業のチラシ作りのお手伝いをしたりしています。まちづくりの中でも、ビジュアルで見えるほうが分かり役買ったり伝わりやすかったりする部分があるので、これからもそういうところでお手伝いをしていけたら良いかなと思っています。

私が、こんな風にしたいと思っている理想の仕組みがあります。マドリズの仕事はクライアント様から依頼を受けて納品するということで一旦完結します。それをクライアントの了承をいただける範囲でマドリズのホームページやSNS等にアップしてマドリズのファンの人たちをつくりたいと思っています。既に、銭湯のイラストなどを面白いねと言って見ていただいている方々がいらっしゃいます。そのファンの人たちに楽しんでいただき、行く行くはファンの方たちからマドリズにお仕事を発注していただく方とかコラボしてくれる人とかが出てきたらいいなと思っています。場合によってはクラウドファンディングのような形で資金援助していただけたりすると幅が広がってくるのかなと思っています。そうするとマドリズだけでなくクライアント様に対してもマドリズの活動を通してその存在を広く知っていただき、クライアント様のファンになっていただけます。また、クライアント様に十分な資金がない場合に、クラウドファンディングの仕組みを使って資金調達をしていただくということも考えられるのではないかと思っています。私の仕事は依頼された内容を形にしていくことですが、あの人が見たらこんな風に喜んでもらえるかなと特定の人を思い浮かべながら描いていることがあります。そのように楽しんでほっしいという気持ちが作品の楽しさにつながっていけばよいなと思いながら制作を進めています。

つたないお話でしたが、ご清聴ありがとうございます(拍手)。

<意見交換>
寺田)愛知県豊川の商店街のまちづくりに取り組んできておられるというお話でしたので、それまでは愛知県を拠点に活動しておられたと思うのですが、京都に来られた理由をお聞かせください。
大武)町家とか古民家という古い建物を残していくために何かできないかなという思いを持っていたということが一つの理由です。住宅メーカーで働いていた時には新築ばかりを手掛けていました。そして休みの日に旅行に行って古民家のゲストハウスに泊まることにはまって、休みがあれば古民家のゲストハウスめぐりをしていました。一方で、仕事では古い建物を壊して新築するという場面に遭遇することもあって、フラストレーションがたまっていました。そうすると、自分の仕事して取り組むことが難しくなって、古民家の再生に取り組んでいる設計事務所を探したりしていました。当時は、そういう事務所の求人が見つからなかったのですが、そっちよりの仕事がしたいと思っていたところに、京町家のゲストハウスの住み込みのヘルパーの仕事に出会いました。まずは、夏は暑く、冬は寒いと言われている京町家の暮らしの体験をしてみようと思って京都に来ることになりました。京都という町にこだわったのではなく、たまたま、京都で町家のゲストハウスの求人があって京都にやってきました。

寺田)古民家などの古い建物の再生の提案をするというお仕事をされているおられ、わたくしも、大武さんが古い町家の長屋の暮らし方を魅力的に伝えられているなと感心しています。図面では表現できないことを大武さんの間取り図で表現ができていることに関心をしています。一方、いわゆる立派な町家の場合、一つ一つにディテールや素材が素晴らしかったりします。そういう魅力をマドリズさんならどのように表現できるのかお伺いします。
大武)もちろん図面的なことでは表現しきれないことはいっぱいあるなと思っています。ですので、銭湯の間取り図でも、結構、コメントをいっぱい入れています。ここにお魚の形のタイルがあるとか、入り口の衝立だとか、木製のロッカーが漆喰の壁に映えますなどと書き込みます。そうすると、読むという行為を通じて、読者が想像を膨らませていただくことができると思っています。

宗田)今のことに関連するのですが、古民家を見て歩くことにはまったとおっしゃっていましたが、不動産屋さんが古民家をそのまま販売しようという案件で、大武さんがこうしたら楽しいのではないかという提案を加えて、イラストにされたお仕事がありました。私も京町家再生のしごとをしていますが、以前はイタリアに居ました。イタリアをはじめイギリスもフランスも古民家を大武さんのような視点でイラストに描く人がいて、それが建築に生かされているということが常識となっています。日本では古い建築の修復の歴史が浅いから、まず構造から入ってきました。それも、その普及したり老朽化した部位をどのように直すかということから入って、次に構造補強で、限界耐力計算をすることでいっぱいになります。そこを何とか乗り越えた人たちが向かうのが機能なんです。いわゆる、民泊に使うときにこれくらいの広さでこのくらいのお金をかけたらこういう風に使えるなどと企画します。一番肝心な建築デザインのところができていない。やるとなったらとことんやるんですが、大武さんがやっておられるような個々の町家の歴史とか人生や生きざまをちゃんと見つけ出してあげて、この部分は機能的には無駄だけど愛おしいから残してあげようというのが設計じゃないですか。そういうことが古い建物に向き合うときの設計のスタンスじゃないですか。大武さんはそういうことに関心がおありになって、単に間取り図で終わらずに、間取り図を通じて、その向こうにある建築を探るというかその良さを見つけ出して、次に修復という形で設計に生かしていかれるのだと思います。今の京都の町家再生の建築のレベルでは満足をされていないから、間取り図という形で、大武さんが表現していこうとされていることを継続していかれると素晴らしい町家の再生、設計につながると思います。目の付け所がいいというか、すぐに仕事につなげたらいいというのではなくて、そうやって建物の良さをとことん探るという姿勢で絵を描きながら、時間をかけてやっていうときに町家の修復が上手くなっていくなと思います。
大武)町家のいいところは生かしてほしいなと思います。センスの良くない改修も少なくないなと思っています。
宗田)それを何とかしてくださいよ(笑い)。
大武)そういうことに繋がることかどうかわかりませんが、やってみたいと思っていることがあります。風呂が無い町家がありますが、近くの銭湯を紹介しながら暮らし方の提案を含めてそこに住むことを提案したいと思っています。お風呂をつけてしまえば済む話なのですが、風呂がないからこそ家賃が低い割に部屋数が多かったりして、住み開きのような使い方の可能性がすごくあるなと思っています。お風呂をつけて家賃が高くなると使い方に制約が出てきます。今ある良さを生かしながら使っていってもらうことを進めていきたいと思っています。

大島)大武さんが提案されていた、いわば、マドリズコミュニティをつくるというところに私も巻き込まれたのかなと思っています。実は、今、大武さんに2件ばかりお仕事をお願いしています。一つはマンションで、今一つは路地という全然タイプの違うような仕事なのですが、それを大武さんにお願いした意図は、大武さんワールドで、どういう目線で見て、どういう風な表現をされるのか見てみたいというところが一番の理由であるように思います。それは当然、根底に、その表現手法に共鳴するところがあったのだと思いますが、単にビジュアルで分かり易く示すだけではなくて、その向こうに透けて見えることもメッセージとして伝えたいという人たちが、大武さんに依頼したいと集まってこられるのかなと思いました。そういう意味ではマドリズコミュニティをどういう風に広げていかれるのかということについても非常に興味深いなと思いました。質問ですが、銭湯愛というものはどういう切っ掛けで生まれたのですか。並々ならぬ愛情を感じます。
大武)元々、愛知県に住んでいてましたが、京都ほど銭湯は多くなく、行く機会もありませんでした。それが、京都に来てみたら、あちこちに暖簾がかかっていて、すごい身近な存在だと思いました。そして、当時はゲストハウスに住み込みで、シャワーをお客様と共有するという生活だったので、銭湯に行ったら気楽にお風呂に入れるので、お客様にも銭湯を勧めていました。地元の文化を知ってもらって広いお風呂に入れるほうがお客様も喜んでもらえますし、お勧めするに際して自分も体験して知っておくほうが良いということで、お風呂通いを始めました。2軒目の銭湯に行ったときにそれぞれにすごく個性があるなということに気付いて、そのことを発信したいなと思うようになりました。

寺田)船岡温泉はどのように描かれたのでしょうか。
大武)はい、描いています。こんな感じで、下駄箱があって、番台があって男女に分かれて入っていきます。船岡温泉の場合、日替わりで男女が入れ替わりますので、両方のお風呂を楽しむことができます。左のほうは、この辺にマジョリカタイルというタイルが張ってありすごく豪華な空間です。その部分については別にイラストで表現しています。浴室に入る前に庭があってそこを抜けて入っていきます。橋のような作りになっていて、池には鯉が泳いでいます。その奥に浴室があって、いろんな種類の浴槽があり、檜風呂もあります。露店風呂もあり、水風呂と岩風呂があります。右のほうも、同じく庭の通路を歩いて浴室に入ります。奥にサウナがあって、露店風呂が檜風呂になっています。本にしたときは銭湯毎に6ページくらいでご紹介しているので、ディテールを紹介するページがあったり、間取りを紹介するページがあったりします。

大島)妹尾河童さんが描かれた「河童が覗いた」シリーズにインスパイアーされたということはないのですか。
大武)実は、むちゃくちゃ影響されています(笑い)。銭湯で写真が撮れないからどうやって表現しようかと思った時に、いくつか方法を考えました。上から見て、少しパースペクティブに描くという妹尾さん方式が全体を見てもらえるので写真にはできない表現方法だと思って取り入れさせてもらいました。妹尾さんの本を読んでなかったらこの発想が出ていたかどうか分からないですね。Facebookのページを立ち上げた時には、河童さんをもじって「○○が覗いた銭湯」にしようと思って、そこでヒツジが出てきました。なにか3文字くらいで良いキャラクターがないかなと思った時にヒツジが出てきました。そういう意味ではノリで命名しましたので、本が出てこんなにヒツジがぐいぐいと出てくるとは想像していませんでした。

赤澤)今日は、お話ありがとうございました。ゲストハウスの間取り図も、西陣京極のマップもそうなのですが、単に描くということではなく、銭湯に入ってみて、飲み屋にも何件か行って見て楽しんだ様子が図に表れていてすごく良いなと思っています。たまに観光地とかのマップを見るといろいろな情報が平等に掲載されていて、どこが面白いのか良く分からないことが少なくありません。もちろん役所がつくると、そういうことが難しいことがあります。大武さんの作品は、メリハリがあって面白いし、なにか歩いたり見たりしたくなる表現だなと思いました。今度、僕が見てみたいと思うことは、いろいろなモノづくりをされている方の工房です。工房も作っているものや作っている人によって、内部の人の動き方とか、モノの配置のレイアウトなどに特徴があると思います。そういう、西陣の工房を上から見るとなにかストーリーが見えてくるのではないかと思います。これからの若い人たちが、モノづくりに携わってみたいと妄想できるような間取り図を描いていただきたいなと思います。実際に、そういう工房を間取り図に表現されたことはありませんか。
大武)工房を表現したことは、まだ無いのですが、先日、紫野で桶を作っておられる近藤さんの工房にお邪魔しました。その時に、工房がめっちゃカッコいいと思ったので確かにおっしゃる視点はその通りだと思います。そういうことが発信することができたら私も楽しめるなと思います。どこかの大学の学生さんたちが、東山の方の職人さんに注目して描かれた本を出されているというお話を聞いたことがあります。西陣は是非、私にやらせてもらいたいと思います。

宗田)大武さんが見てカッコいいと思う工房と、そうじゃない工房の違いは明確にあるんでしょう。
大武)私は、あんまり沢山の工房は拝見していないので、何とも言えないのです。
宗田)工房というのは、赤澤先生が仰ったように、その職人の生き様というか仕事ざまが出ていて、道具の片付け方一つとか工程とかに関してこだわりがある人って、その工房の空間がすごく綺麗なのですね。こだわり切れていない人は中途半端ですよね。その様子を見ていて、綺麗だな、間取り図に描いてみたいなと思うのは、大武さんの隠された美意識によるのだと思います。例えば、妹尾河童さんは河童さんの拘りで描かれていて、作家さん毎にその拘りが異なります。大武さんの場合は割と建築的で、昔、デザインサーベイをやっていた宮脇壇が郡上八幡を描いた絵とかに似ているかなと思います。
寺田)今の一連のお話は、西陣活性化ビジョンを策定している京都市のスタッフの方の来ておられますので、ぜひ、クライアントになっていただき実現をしていただきたいと思います。その時にはこの西陣R倶楽部のネットワークを大いに活用していただければ幸いです。

酒井)1枚の絵を描くのにどのくらいお時間がかかるものでしょうか?
大武)モノによります。船岡温泉などは結構時間がかかっています。一日で描けるものもあれば取材に何日もかかるものまで、いろいろです。
酒井)先ほど、動画があった京極湯さんだとどのくらいかかっていますか?
大武)あれは、ほぼ一日で描いています。ただ、取材して、写真を持ち帰って、いざ作図の段階で、ああだったか、こうだったかと思い悩むと、損ことに時間がかかったりします。

若村)観光の観点でいうと、意外と建築を観光で見る人は少なくて、お庭とか仏像とかありますが、建築の細かいところを見るとか空間を見る人は少ないです。ただ、建築は素晴らしい文化財で、例えば国宝とか重要文化財に指定されている文化財で唯一触れるのは建築なんです。400年前の建築だけど触っても怒られません。これが絵画とか仏像でしたらすぐに捕まってしまいます。私も法隆寺に行ったら、必ず生徒に触るように言っています。1400年前の飛鳥時代をそのまま触れるわけですから、観光においては、建築の魅力はそういうところにあると思っています。歴史上の古建築を大武さんのテイストで伝えて、仏像が好きな仏ガールのように建築ガールの先駆けになれば、観光のパイは非常に大きいので良い本ができそうだと思いますが、古建築を対象にすることはいかがですか。
大武)古建築は好きです。銭湯もそうなんですけど、観光とか旅行に行った先でローカル感を感じてもらえたらいいなと思っていて、銭湯の場合は、そこでお風呂に入るという体験もできるので、その地域の文化を知ってもらうためには建築というのは優れたツールだと思います。私も住宅メーカーに勤めていた時には、休みのつど、体験を伴う古民家の宿などに泊まることも大好きで、そこの生活文化を感じるという意味ですごく共感できる視点かなと思います。そういいう意味で、ぜひ、本を出させていただいたらうれしいなと思います(笑い)。
寺田)お話は尽きませんが、このあたりで中締めとさせていただきます。

<京都市からのご案内>
○ 西陣を中心とした地域活性化ビジョン(案)への市民意見募集について
(京都市総合企画局酒井課長)>
○ 京都市京町家保全・継承推進計画(案)に対する市民意見募集について
(京都市都市計画局 関岡課長)

<吉田創一事務局長 中締め挨拶>
皆様、本日はお忙しい中、第9回の西陣R倶楽部にご参加いただき誠にありがとうございます。会を重ねるごとに参加の皆さんが増えて、非常にうれしいなという思いでございます。そして、本日は大武さんには素晴らしいプレゼンをいただきまして本当にありがとうございました。大武さんらしい、大武さんにしかできない手描き図面による分かり易いプレゼンでした。こうした手描きのプレゼンは、お客様に対して温かみがあって、分かり易く生活のイメージも伝わるものだと改めて実感いたしました。とりわけ、自分が好きな仕事をピックアップして、それを得意としてお仕事をされており、現代の働き方だなと感服しました。実は、弊社でもこの4月からオープンしているホテルの周辺マップ、西陣をブラブラ歩いて楽しんでいただけるマップを大武さんに依頼しています。それをお見せできるようになるのが、1月くらいになるのかなと思いますので、出来上がりましたら皆さんに見ていただきたいと思っています。この後の交流会では、西陣を盛り上げていきたいという強い思いを持った方ばかりですので、是非、盛り上がっていただきますようよろしくお願いいたします。今日は、ありがとうございます。